今回はインフルエンザの治療薬(抗ウイルス薬)の、適応、効果、使い分けについてお話しします。
インフルエンザは上気道症状を呈し、大分部は自然に軽快しますが、まれに肺炎、脳症などの合併症を起こすことがあります。合併症のリスクの高い方については、合併症予防のために、抗ウイルス薬(ウイルスの増殖を抑える)を検討していただきます。抗ウイルス薬には合併症予防のほか、罹病期間の短縮(24時間ほど早く解熱するなど)の効果もあり、合併症リスクのない方にもご使用いただけます。症状、副反応も考慮し、ご判断いただければと思います。
インフルエンザの合併症リスクの高い方
・65歳以上の高齢者
・5歳未満(とりわけ2歳未満)の幼児
・慢性の、肺疾患(気管支喘息を含む)・心血管疾患・腎疾患・肝疾患・血液疾患・代謝性疾患(糖尿病を含む)・神経疾患(脳脊髄障害、末梢神経障害、筋障害、てんかん、脳卒中、精神遅滞、中等度以上の発達異常、筋萎縮、脊髄外傷を含む)のある小児、成人
・免疫抑制状態の方
・妊婦および出産後2週以内の方
・アスピリンまたはサリチル酸を含む薬物治療を受け、ライ症候群のリスクのある18歳以下
・BMI 40以上の肥満者
・ナーシングホーム等の長期療養施設入居者
抗ウイルス薬には数種類ありますが、当院ではどのように考えて処方しているかをお話しします。なお、抗ウイルス薬は、基本的には発症から48時間以内の方が適応です。
●オセルタミビル(タミフル®、オセルタミビル®)
全世界で使用され、最もエビデンスのあるくすりです。海外での成人と小児における大規模研究で、罹病期間の短縮、合併症を防ぐ効果が示されています。副反応として、嘔気、嘔吐などの消化器症状を認めることがあります。
経口:
・成人及び体重37.5kg以上の小児はカプセル製剤です。1回75mgを1日2回、5日間。
・新生児※、幼児、37.5kg未満の小児はドライシロップ(粉薬)です。1日2回、5日間。
※生後2週以降の新生児から適応があります。
●ザナミビル(リレンザ®)
成人の大規模研究で、罹病期間の短縮、症状の軽快を示しました。健康な小児では、罹病期間の短縮を認めましたが、合併症を予防する効果は示されていません。重症の場合や肺炎や気管支喘息を合併した場合は、効果が限られたり、気管支攣縮を惹起する可能性があるため、推奨されません。乳製品に対して過敏症のある方にも使用は控えます。
吸入ができることが前提なので、6歳以上の方が適応と考えます。
吸入:
1回10mg(5mgブリスターを2ブリスター)を1日2回、5日間
●ラニナミビル(イナビル®)
罹病期間の短縮を示した研究もありますが、データは限られていると思います。確実に吸入ができれば, 1回の吸入で治療が完結します。
●バロキサビル マルボキシル(ゾフルーザ®)
2018年3月に発売された新しいお薬です。まだ十分なエビデンスに乏しいと判断し、当院では使用していません。
インフルエンザ感染自体により異常行動(走る、笑う、泣くなど)を起こすことがあり、2018年日本医療研究開発機構(AMED)研究班の検討によりインフルエンザ罹患後の異常行動がオセルタミビル使用者に限った現象ではないと判断されています。
抗インフルエンザ薬投与の有無に関わらず、小学生以上の小児・未成年者は、異常行動を起こすことがあるため、少なくとも発熱から2日間、保護者の方は、異常行動に伴って起きる転落などの事故が起きないように見守り、対策をしてください。異常行動は、10-15分程度のことが多く、長くても数時間以内に止みますが(この場合は熱せん妄の疑い)、数時間経っても意識障害や異常行動が治らない場合や、痙攣などを起こした場合には脳症の可能性が高いため、速やかに医療機関を受診してください。
手指衛生、咳エチケット、マスクの適時使用などの感染対策はインフルエンザの予防において重要です。
来院される場合も感染対策にご協力いただければ幸いです。マスクができないお子さん方もおられると思います。お車でお待ちいただくこともできます。
よろしくお願いいたします。
参考文献)
・日本感染症学会提言「~抗インフルエンザ薬の使用について~」(2019.10)
・日本感染症学会 キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬 バロキサビル マルボキシル(ゾフルーザⓇ)の使用についての新たな提言(2023.4)
・日本小児科学会 2025/26 シーズンのインフルエンザ治療・予防指針―2025/26シーズンの流行期を迎えるにあたり―(2025.10)
