前回の記事のつづきです。
予防するにはどうしたらいい?
・咳エチケット
咳やくしゃみを他の人に向けて発しない。
・マスクをする(口と鼻を覆う)
・外出後の手洗い(流水・石鹸を用いて)
・流行前のインフルエンザワクチン接種
インフルエンワクチンを受けた方がいいのはどんなひと?
インフルエンザワクチンはインフルエンザにかかることを20-60%ほど予防します。私は、インフルエンザが重症化するリスクの高い方とその家族や接する機会の多い方に、重点的に接種を考えていただければと思います。
日本感染症学会は、高齢者、小児、施設の入所者、介護者、そして医療従事者にインフルエンザワクチン接種を推奨しています。米国疾病予防センター(CDC)の推奨も考慮し、以下の項目に該当する方は、ワクチン接種について追記した詳細もふまえてご検討いただければと思います。
a. 65歳以上の成人
b. 基礎疾患を有する方
慢性肺疾患(ぜん息を含む)、心臓(高血圧を除く)、腎臓、肝臓、血液、神経疾患、糖尿病を有する小児、成人
c. 免疫制御状態にある方
免疫防制薬投与中、癌の治療中の方など
d. 介護老人保健施設もしくは長期療養施設に入所している方、職員
e. 妊娠中の方
f. アスピリンやサリチル酸を含む薬を服用しており、インフルエンザ罹患後にライ症候群を発症するリスクのある小児および青年(生後6ヶ月から18歳まで)
g. 生後6か月~5歳の小児(特に早産児)
↓↓ 各項目の詳細
a. 65歳以上では、インフルエンザによる肺炎、二次性の細菌による肺炎、入院、死亡が増加します。インフルエンザによる入院と死亡の90%が、65歳以上の成人と報告されました1,2。大規模な研究では、65歳以上に対するワクチン接種により、インフルエンザと肺炎による入院と死亡率がそれぞれ33%と47%減少し、全死亡率が50%減少しました3。
b. 肺、心臓、腎臓、肝臓、血液、神経の疾患、糖尿病などの基礎疾患のある人は、インフルエンザによる入院、死亡などのリスクが増えますが、ワクチン接種によりリスクが減少します。
インフルエンザは喘息発作の誘因と考えられています。大規模な研究では、ワクチンにより救急外来を受診/入院する喘息発作が59~78%減 少したと示されました4。日本の研究では、喘息を持つ小児においてワクチンの予防効果は92%と高いものでした5。
e. 妊婦は、身体と免疫の変化によりインフルエンザが重症化するリスクが高く、重症化した場合に胎児に影響がでる可能性があります。妊婦におけるインフルエンザの重症化による入院のリスクが、非妊婦の約8倍高い報告されています6。
妊婦のインフルエンザによる入院に対するワクチンの有効率は40%でした7。インフルエンザワクチンは米国で1950年代から妊婦に接種され、安全性の評価の長い歴史があります。多数の研究により、妊婦、胎児、乳児に有害事象がないことより安全と考えられています。
g. 5歳まで(6歳未満)の小児において、インフルエンザワクチンはインフルエンザ発症を20~60%予防するといわれます。しかし、インフルエンザ脳症を予防するという明らかなデータは現時点ではありません。ただ、脳症はインフルエンザにかかることで発症するため、インフルエンザにかかるのを防ぐことは有用と考えられています。ワクチン接種により小児の重症(致死的)インフルエンザのリスクが75%減少した8、インフルエンザ関連の入院が41%減少した9という報告があります。
・生後6か月未満の小児は重症化のリスクはありますが、ワクチンはまだ接種できないため、乳児と接する家族がワクチンを接種してかからないようにすることが推奨されます。
ワクチンはいつ打てばいいの?
ワクチンが有効な期間は約6か月であり、11月下旬までの接種を完了することが奨められます。効果がでるまで接種してから約2週間を要します。
ご不明な点があれば、受診された時にお気軽におたずねください。
<参考文献>
1. JAMA, 289 (2) (2003), pp. 179-186. 2. Clin Infect Dis, 54 (10) (2012), pp. 1427-1436 3. Vaccine, 20 (13–14) (2002), pp. 1831-1836 4. Clin Infect Dis, 65 (8) (2017), pp. 1388-1395. 5. J Asthma, 51 (2014), pp. 825-831 6, PLoS One, 13 (8) (2018), Article e0200934
7. Clin Infect Dis, 68 (9) (2019), pp. 1444-1453 8. Clin Infect Dis. 2022 Aug 25;75(2):230-238. 9. Pediatrics. 2020 Nov;146(5):e20201368. 10. Int J Infect Dis. 2020 Apr;93:375-387 11. Recomm Rep. 2022 Aug 26;71(1):1-28.