午前10時半過ぎに、10歳の女の子が来院しました。
小学校で1限目に太鼓の練習をした後に、顔や腕が痒くなり、保健室で休んでいましたが、約10分後から少し息がしにくい感じがしてきたため、診療所に向かいました。
来院したときは、顔全体がむくんで、腕に発疹、背中やお腹は全体的に赤くなっています。少し息がしにくく、軽い吐き気もあり元気がありません。受け答えはでき、脈はやや速いですが、酸素飽和度は98%と正常で、呼吸音にも異常がありませんでした。
この病態はアナフィラキシーです。
アナフィラキシーとは、複数の臓器に全身性にアレルギー症状が引き起こされ、生命に危険を与えうる過敏反応です。
アレルギー反応というと何か原因となるもの(アレルゲン)に曝露されたため発症したと考えるかもしれませんが、アナフィラキシーはアレルゲン曝露と関係なく発症することもあります。
症状
アナフィラキシーは2つ以上の臓器(皮膚・粘膜、呼吸器、循環器、消化器)の症状を認めます。最もよくあるのは皮膚・粘膜の症状で、8-9割に出現します。
・痒み、蕁麻疹、皮膚の赤み、口唇や瞼の腫脹(むくみ)(皮膚・粘膜の症状)
その他、次のような症状があります。
・咳、息がしにくい、ゼーゼーする(呼吸器の症状)
・血圧が下がりぐったり、手足や唇の血色が悪い、意識がもうろうとする(循環器の症状)
・腹痛、嘔吐、下痢(消化器の症状)
症状によって軽症、中等症、重症に分類されます。
最初は軽くても急激に進行することがあるため、注意してください。
治療
重症あるいは中等症でも呼吸・循環器症状が重ければ、速やかにアドレナリンの筋注を行います。酸素投与、輸液が必要なこともあります。重症でなければ、皮膚症状の緩和のために抗ヒスタミン薬の投与をしたり、喘鳴に対して気管支拡張薬の吸入をしたりします。
アナフィラキシーは、二相性反応といって、初回アナフィラキシーがおきてから48時間以内(半分は6-12時間以内)に再びおきることがあります。頻度は約5%といわれています。初回の症状が良くなっても2日間は体調を観察してください。
対策と予防
初期対応の後に、アナフィラキシーの原因の評価と今後の対策をします。
アナフィラキシーの既往のある方は、エピペン®(アドレナリン自己注射薬)を携帯することもあります。園や学校とも情報共有する必要があります。
Q.病院に行った方がいい?
・基本的には速やかに病院を受診してください。
・呼吸が苦しい、ゼーゼーしている、ぐったりしている、繰り返し吐き続けるという場合は救急車を要請してください(119番)。
Q.病院に行くまでにできることは?
・基本的には横になり、安静にしてください。
・ぐったりしたり、意識がもうろうとしている場合は、血圧が下がっている可能性があるので、仰向けで足を15-30cm高くしてください。自力で立たせないようにしてください(さらに血圧が下がります)。
・吐き気、嘔吐がある場合は、嘔吐物による窒息を防ぐため、顔と体を横に向けて寝させてください。
・呼吸困難がある場合は、少し上半身を起こし、後ろによりかからせてください。
アナフィラキシーは軽症、中等症であれば当院でも対応ができますが、急激に進行して救急対応が必要となる場合もあるため、急性期病院を受診することをおすすめします。かかりつけ医として情報共有を行い一緒に経過をみさせていただきます。
References
・Simons FE. Anaphylaxis. J Allergy Clin Immunol. 2010;125:S161-81
・日本アレルギー学会, アナフィラキシーガイドライン, 2022